公認会計士に簿記資格は必要?関連性やメリット・デメリットを徹底解説!

公認会計士の試験科目には、管理会計論、財務会計論、会計学など、「日商簿記試験」と重なる内容も含まれています。
「日商簿記試験」の延長線上に公認会計士試験があるとも言われており、簿記の勉強が公認会計士の資格取得に役立つのは事実です。
では、実際に公認会計士を目指すにあたって、簿記の資格は必要なのでしょうか。
この記事では、簿記と公認会計士の関係性や両資格の難易度、簿記取得のメリットなどを紹介します。
なお、この記事では「簿記」は「日商簿記」を示すものとします。
公認会計士と簿記の概要
公認会計士と簿記の資格や仕事にはどのような違いがあるのか、概要を以下にまとめています。
公認会計士とは
公認会計士は、「監査」を独占業務として行える唯一の国家資格です。
試験は、短答式(マークシート式)試験(4科目・年2回)と論文式試験(5科目・年1回)の2段階方式で、年齢や性別、国籍にかかわらず受験することが可能です。
試験範囲として、財務会計論・管理会計論・監査論・企業法・租税法など幅広い専門知識が求められるため、学習には長期間を要します。
合格にあたっては、すべての科目で合格点を上回る必要があり、合格率が10%前後という非常に難易度の高い資格です。
試験合格後は、2年以上の業務補助と3年間の実務補習の修了が認められることで、公認会計士として登録できるようになります。
会計のスペシャリストである公認会計士は、監査法人や税理士法人、コンサルティングファーム、一般企業、金融機関などさまざまな分野・業種で活躍が期待できます。
簿記とは
簿記とは、企業の財務状況を把握するため、お金の出入りを記録する業務です。
簿記の資格には、日商簿記・全経簿記・全商簿記の3種類があり、難易度や試験内容はそれぞれ異なります。
この中で最も認知度の高いのは日商簿記で、2級もしくは1級を取得すると経理のスペシャリストとして評価され、転職にも有利です。特に日商簿記1級は難易度が最も高く、公認会計士試験に近いレベルの簿記知識が求められます。
1級に合格すると、税理士の受験資格を得られることも魅力的なポイントです。
2級以上の出題範囲に含まれる商業簿記と工業簿記は、公認会計士の試験科目である財務会計と管理会計に該当します。
商工会議所が実施する日商簿記検定は、3級・2級が年3回、1級が年2回です。
簿記の資格を取得した後には、一般企業の経理部門や会計事務所などで経理や簿記に関する業務に従事することが一般的です。
公認会計士試験と簿記1級試験の関連性や違い
前述の通り、公認会計士試験は国家資格で、簿記1級は公的な資格ですが、公認会計士試験の合格には日商簿記1級合格程度の知識が求められることもあり、共通点もみられます。
試験の特徴 | 公認会計士 | 簿記1級 |
---|---|---|
受験資格制限 | なし | なし |
試験方式 | 1次試験:マークシート 2次試験:論文式 |
1回の試験のみ |
出題内容 | 1次試験:管理会計論、財務会計論、監査論、企業法 2次試験:会計学、監査論、租税法、企業法、選択科目 |
商業簿記、会計学、工業簿記、原価計算 |
合格率 | 10% | 10% |
勉強時間 | 約3,500時間 | 約900時間 |
受験資格
公認会計士試験、簿記1級試験は、どちらも受験資格に制限が設けられていません。年齢、性別、国籍を問わず、だれでも受験できます。
試験方式
公認会計士試験は、短答式(マークシート式)の1次試験に合格後、論文式の2次試験を受験できます。
簿記1級試験は1回の試験のみで合否が決まります。
出題内容
公認会計士試験の試験科目は、1次試験が管理会計論、財務会計論、監査論、企業法、2次試験は会計学、監査論、租税法、企業法、選択科目(経営学、経済学、統計学、民法)と幅広くあります。
対して簿記1級の試験科目は、「商業簿記、会計学、工業簿記、原価計算」の4科目です。
試験内容に共通する範囲もあります。
公認会計士試験の財務会計論には、簿記1級にある計算問題が含まれており、管理会計論は商業簿記と工業簿記に該当します。監査論や企業法、租税法の出題を解くにも、簿記1級の知識が必要です。
具体的な共通点としては、ともに「財務諸表」を取り扱うことです。簿記1級では財務諸表を作成する能力、公認会計士は財務諸表を正しく報告するスキルが求められます。
合格率
簿記1級と公認会計士の試験は、合格率がどちらも10%前後という狭き門ですが、視点を変えると難易度に違いも見られます。
簿記1級は公認会計士の登竜門と言われ、簿記1級に合格することが公認会計士試験の基礎固めや応用に役立つとされています。
簿記1級の試験では難易度の高い計算問題も出題されますが、公認会計士試験は短答式や論文式など出題のアプローチに変化があり、論点も幅広いため、難易度がより高い傾向にあります。
筆記試験だけでなく、実務経験や面接試験など複数の段階にわたって評価されることも、公認会計士試験のハードルが高いとされる理由のひとつです。
勉強時間
また、勉強時間の面でも難易度が異なります。
簿記2級・3級の資格を持たずに簿記1級を目指した場合、合格に必要な勉強時間は約900時間が目安です。
一方、公認会計士試験に合格するためには、約3,500時間もの勉強量が必要と言われています。
公認会計士試験は、習得すべき専門知識がハイレベルであるのに加えて科目数も多いことから、学習にかかる道のりも容易ではありません。
公認会計士試験の前に簿記から取得する必要はある?
公認会計士試験に合格するためには、簿記の内容を正しく学習することが重要です。公認会計士試験は簿記1級レベルの問題が出されるため、その基礎となる簿記3級の知識が欠かせません。基礎からすべてを学習するための学習時間が必要になります。
メリット
簿記の知識を先に身につけると、基礎を固められるため公認会計士試験の内容をスムーズに理解できます。
また、簿記の試験を先に挑戦しておくことで試験勉強の進め方が確立でき、試験に合格した成功体験から学習のモチベーションアップにもつながります。
公認会計士を目指すステップとして、基礎を身につけて学習イメージにつなげやすい簿記3級から勉強するのは良い方法です。簿記3級取得後に簿記2級へステップアップすることで理解力が深まり、学習がスムーズに進んでいきます。
簿記2級の試験科目では管理会計論が加わりますが、これは公認会計士試験においても重要な科目のひとつです。簿記2級は、管理会計論の知識をカバーできるメリットも含めて、公認会計士に向かう道筋を確かなものにしてくれるでしょう。
簿記1級では、試験範囲が公認会計士試験と重なる科目が少なくありません。特に多くの学習時間を要する科目が重複しているため、簿記1級を取得することが公認会計士試験の学習にかかる負担軽減につながります。
デメリット
一方、簿記資格を取得するためには相応の時間を費やすので、公認会計士試験のための勉強時間が減るのはデメリットであると感じる方もいます。簿記1級は難易度が高く、合格するためには公認会計士試験では求められない出題範囲も含めて長時間の勉強が必要です。
簿記3級から順に試験を受けていく場合、それぞれの試験で以下のような学習が求められます。
簿記3級の試験内容は、主に小規模な会社の経理業務に必要な商業簿記の基礎知識です。合格率は45%~55%程度で、3級の合格に必要な学習時間は100時間程度とされています。
簿記2級の試験内容は、中規模程度の会社における会計処理、財務諸表作成などの知識を含む高度な商業簿記、製造業に欠かせない原価計算などです。合格率が15%~30%程度、学習時間は200時間ほど必要とされます。
簿記1級は、大企業の会計処理が行えるレベルとされます。連結会計、管理会計、高度な簿記知識が出題される試験です。上記のとおり合格率は10%程度、約900時間の学習時間が必要になります。
公認会計士の資格がなくても簿記があれば転職で有利に!
公認会計士を目指していても、何らかの理由で資格取得をリタイアする人はまれではありません。では、そのような方は就職、転職が出来ないのでしょうか。
実は、公認会計士資格を取得できていなくても、公認会計士の試験勉強をしていたことで会計知識があると見なされやすく、転職には有利になります。
また、日商簿記2級以上の資格があれば、経理にかかわる転職の際には大きな強みになります。簿記2級を持った人材は、会計帳簿の作成や財務諸表を読み解く即戦力として評価され、書類選考も通過しやすいでしょう。
簿記2級の資格を活かせる転職先としては、会計事務所や税理士事務所、企業の経理・財務・営業部門、コンサルティング会社、金融機関など多岐にわたります。
「公認会計士の資格はないけれど、簿記2級の資格ならある」という方は、自信を持って転職に臨んでください。
簿記を活かせる求人例
ここでは、弊社「MS Agent」で取り扱っている簿記資格を活かせる求人の一部をご紹介します。
大手電機メーカーのグループ会社での経理求人です。
想定年収 |
400万円~600万円 |
仕事内容 |
・メーカーの経理/会計業務全般 ・事業戦略/計画の策定補助 ・内部統制業務、経営分析、経営管理 |
必要な経験・能力 |
<必須> ・簿記3級以上の方もしくは、同等の知識をお持ちの方 <歓迎条件> ・金融機関からキャリアチェンジを希望される方 ・メーカーでの経理経験のある方 ・1,000名以上の規模での経理経験のある方 ・公認会計士や税理士などを目指したことのある方 |
企業の経営戦略とディスクロージャーをトータルサポートしている企業にて会計コンサルタント募集
想定年収 |
425万円~850万円 |
仕事内容 |
会計コンサルタントとして、会計システムの提案・導入支援からコンサルティングまでお任せします。 ・ヒアリング・提案 ・システムの導入サポート |
必要な経験・能力 |
<必須> ・会計コンサルティング業務に興味をお持ちの方 <歓迎> ・公認会計士・短答式試験合格者・受験経験者 ・税理士・科目合格者・受験経験者 ・日商簿記検定2級以上もしくは同等以上の知識 ・企業や会計事務所等での会計・経理実務経験 |
【会計士、簿記1級合格者歓迎】大手金融機関から経理担当の求人です
想定年収 |
450万円~1,200万円 |
仕事内容 |
・財務諸表の作成など決算に係る各種業務(米国会計を含む) ・決算に係る各種開示書類及び当局報告等の作成 ・決算業務の高度化・プロセス効率化 ・会計制度・会計基準等に係る調査研究、新会計基準対応等 |
必要な経験・能力 |
<必須> 以下のいずれかを満たすこと ・業務経験:事業会社での会計実務経験、監査法人、コンサルティングファーム等経験者 ・会計資格:CPA試験合格者(日・米)または日商簿記1級合格者 <歓迎> ・英語力:TOEIC(L&R)テスト730点以上(米国会計はTOEIC(L&R)テスト800点以上) ・ITスキル:ExcelVBAベーシック、AccessVBAベーシック ・業務経験:決算業務高度化・プロセス効率化、それらのコンサルティング |
まとめ
簿記試験と公認会計士試験は、試験内容がある程度重複しています。先に簿記試験に合格して基礎を身につけると、公認会計士試験の学習を理解しやすくなり、試験勉強の負担軽減につながるメリットを得られます。
公認会計士の資格を取得していなくても、簿記2級以上の資格があると転職活動で企業へのアピールが可能です。転職後に公認会計士の学習にじっくり取り組むこともできるため、簿記の資格取得から挑戦して徐々にスキルアップしていきましょう。


この記事を監修したキャリアアドバイザー

大学卒業後、カーディーラ・小売業を経験し、2008年からMS-Japanでリクルーティングアドバイザーとキャリアアドバイザーを兼務しております。
会計事務所・監査法人 ・ コンサルティング ・ 公認会計士 ・ 税理士 ・ USCPA ・ 弁護士 を専門領域として、これまで数多くのご支援実績がございます。管理部門・士業に特化したMS-Japanだから分かる業界・転職情報を日々更新中です!本記事を通して転職をお考えの方は是非一度ご相談下さい!
あなたへのおすすめ求人
同じカテゴリの最新記事

公認会計士の独立|注意点やメリット・デメリット、必要な準備など

なぜ「公認会計士はやめとけ」と言われるのか?5つの理由と実態を解説

【令和7年公認会計士試験|論文式試験】直近合格率や結果発表後の流れなど

令和7年(2025年)公認会計士試験の日程|試験から合格後の流れ

【公認会計士の転職】完全ガイド|おすすめの転職先17選や年代別転職のポイントなど

公認会計士が独立した際によくある失敗は?後悔しないための準備とは

【令和7年公認会計士試験|第Ⅱ回短答式試験】最新合格率や過去7年間の推移など

企業内会計士とは?転職のメリット・デメリットや年収、キャリアについて解説

2025年版【愛知県】監査法人一覧・求人情報
求人を地域から探す
セミナー・個別相談会
-
はじめてのキャリアカウンセリング
常時開催 ※日曜・祝日を除く -
公認会計士の転職に強いキャリアアドバイザーとの個別相談会
常時開催 ※日曜・祝日を除く -
USCPA(科目合格者)のための個別相談会
常時開催 ※日曜・祝日を除く 【平日】10:00スタート~最終受付19:30スタート【土曜】9:00スタート~最終受付18:00スタート -
公認会計士短答式試験合格者のための個別相談会
常時開催 ※日曜・祝日を除く 【平日】10:00スタート~最終受付19:30スタート【土曜】9:00スタート~最終受付18:00スタート -
初めての転職を成功に導く!転職活動のポイントがわかる個別相談会
常時開催 ※日曜・祝日を除く
MS-Japanの転職サービスとは
大手上場企業や監査法人、会計事務所(税理士法人)など、公認会計士の幅広いキャリアフィールドをカバーする求人をもとに、公認会計士専門のキャリアアドバイザーがあなたの転職をサポートします。
キャリアカウンセリングや応募書類の添削・作成サポート、面接対策など各種サービスを無料で受けることができるため、転職に不安がある公認会計士の方でも、スムーズに転職活動を進めることができます。

MS-Japanを利用した会計士の
転職成功事例
転職成功事例一覧を見る
会計士の転職・キャリアに関するFAQ
監査法人から事業会社への転職を考えています。MS-Japanには、自分のような転職者はどのくらい登録されていますか。
具体的な人数をお知らせする事は出来ませんが、より直接的に企業に関わりたい、会計の実務経験を積みたいと考えて転職を考える公認会計士の方が大多数です。 その過程で、より多くの企業に関わりたいという方は、アドバイザリーや会計事務所への転職を希望されます。当事者として企業に関わりたい方は事業会社を選択されます。 その意味では、転職を希望する公認会計士の方にとって、監査法人から事業会社への転職というのは、一度は検討する選択肢になるのではないでしょうか。
転職活動の軸が定まらない上、求人数が多く、幅が広いため、絞りきれません。どのような考えを持って転職活動をするべきでしょうか。
キャリアを考えるときには、経験だけではなく、中長期的にどのような人生を歩みたいかを想定する必要があります。 仕事で自己実現を図る方もいれば、仕事以外にも家族やコミュニティへの貢献、パラレルキャリアで自己実現を図る方もいます。ですので、ご自身にとって、何のために仕事をするのかを一度考えてみることをお勧めします。 もし、それが分からないようであれば、転職エージェントのキャリアアドバイザーに貴方の過去・現在・未来の話をじっくり聞いてもらい、頭の中を整理されることをお勧めします。くれぐれも、転職する事だけが目的にならないように気を付けてください。 今後の方針に悩まれた際は、転職エージェントに相談してみることも一つの手かと思います。
ワークライフバランスが取れる転職先は、どのようなものがありますか?
一般事業会社の経理職は、比較的ワークライフバランスを取りやすい為、転職する方が多いです。ただ、昨今では会計事務所、税理士法人、中小監査法人なども働きやすい環境を整備している法人が出てきていますので、選択肢は多様化しています。 また、一般事業会社の経理でも、経理部の人員が足りていなければ恒常的に残業が発生する可能性もございます。一方で、会計事務所、税理士法人、中小監査法人の中には、時短勤務など柔軟に対応している法人も出てきています。ご自身が目指したいキャリアプランに合わせて選択が可能かと思います。
監査法人に勤務している公認会計士です。これまで事業会社の経験は無いのですが、事業会社のCFOや管理部長といった経営管理の責任者にキャリアチェンジして、早く市場価値を高めたいと考えています。 具体的なキャリアパスと、転職した場合の年収水準を教えてください。
事業会社未経験の公認会計士の方が、CFOや管理部長のポジションに早く着くキャリアパスの王道は主に2つです。 一つは、IPO準備のプロジェクトリーダーとして入社し、IPO準備を通じて経営層の信頼を勝ち取り、経理部長、管理部長、CFOと短期間でステップアップする。 もう一つは、投資銀行などでファイナンスのスキルを身に着けて、その後、スタートアップ、IPO準備企業、上場後数年程度のベンチャーにファイナンススキルを活かしてキャリアチェンジすることをお勧めします。近年はCFOに対する期待が、IPO達成ではなく、上場後を見据えた財務戦略・事業戦略となってきているため、後者のパターンでCFOになっていく方が増えています。 年収レンジとしてはざっくりですが800~1500万円くらいでオファーが出るケースが一般的で、フェーズに応じてストックオプション付与もあります。
40歳の会計士です。監査法人以外のキャリアを積みたいのですが、企業や会計事務所でどれくらいのニーズがあるでしょうか。
企業であれば、会計監査のご経験をダイレクトに活かしやすい内部監査の求人でニーズが高いです。経理の募集もございますが、経理実務の経験が無いことがネックになるケースがあります。 会計事務所ですと、アドバイザリー経験の有無によって、ニーズが大きく異なります。また、現職で何らかの責任ある立場についており、転職後の顧客開拓に具体的に活かせるネットワークがある場合は、ニーズがあります。

転職やキャリアの悩みを相談できる!
簡単まずは会員登録