監査法人のアドバイザリーとは?業務内容やコンサルティングファームとの違いなどを解説

近年、監査法人では、非監査証明業務であるアドバイザリー業務に注力するようになっています。公認会計士資格をもっていない方も転職に成功しており、コンサル業など近い業務の経験・スキルをもつ方にとっては、有力な転職先候補にもなるでしょう。
今回は、監査法人のアドバイザリー部門における業務内容、コンサルティングファームとの違い、求められる経験・スキルなどについて詳しく解説します。
監査法人のアドバイザリー業務とは
監査法人の主な業務は、決算書への助言と会計・システムの監査を行う監査証明業務です。
監査証明業務とは、クライアント企業が作った決算書(財務諸表)が、会計基準に則って適性に作成されているかどうかをチェックする業務のことです。
こうしたチェック業務のことを「監査」といい、監査結果は「監査報告書」にまとめられます。その際、監査意見を表明するのも監査法人の仕事です。
一方、監査法人が行う監査証明以外の業務のことは、非監査証明業務と呼ばれています。クライアントに対して企業経営に関わる助言を行うアドバイザリー業務は、監査とは関わりのない非監査証明業務に該当します。
現在、多くの監査法人が非監査証明業務であるアドバイザリー業務も行い、アドバイザリー業務の売上が監査証明業務よりも高い、もしくは同等近くとなる監査法人もあります。なお、アドバイザリー業務に従事するには、公認会計士資格は必須ではありません。
監査法人のアドバイザリー業務には制限がある
ただし、2001年にアメリカの大企業エンロンが不正会計事件を起こし、事件に深く関与していた大手監査法人アーサー・アンダーセンが解散に追い込まれたことがきっかけとなり、監査法人は監査先のクライアント企業に対して、以下のコンサルティングはできないことになっています。
・財務・会計システムの設計・導入などの業務
・経営の意思決定に関与する業務 など
したがって、監査法人が提供するアドバイザリー業務は、リスク管理と内部統制が中心です。
監査法人のアドバイザリー業務は近年拡大しています。 その第一の理由は、コンサルティング業務のニーズが近年では大企業のみならず、中小企業にまで拡大していることです。
また、IT化やグローバル化の進展により、企業にとってリスク管理の必要性が高まっていることも挙げられます。
アドバイザリー業務の具体例
監査法人のアドバイザリー業務はリスク管理と内部統制を主体としています。監査法人によっても行っているアドバイザリーの内容は異なり、あくまで代表的な業務例としては以下を挙げられます。
- ・リスク管理全般(戦略リスク、事業リスク、カントリーリスク、危機管理、金融リスク管理など)
- ・内部監査・内部統制支援
- ・サイバーセキュリティ、データマネジメント
- ・トランザクションアドバイザリー
- ・バリュエーション
- ・ポストマージャーインテグレーション(PMI)
- ・フォレンジック
- ・リストラクチャリング
- ・M&Aアドバイザリー
アドバイザリーの求人情報を確認したい方はコチラ
アドバイザリーの求人情報
大手~中小監査法人まで幅広いネットワークを保有する弊社では、これからアドバイザリーで働きたい方や他の監査法人のアドバイザリーに転職したい方に向けて数多く求人ご用意しております。
弊社のみが扱っている求人も多いため、ぜひご確認ください。
コンサルティングファームとの業務内容の違い
コンサルティングを行うのはアドバイザリー業務を担う監査法人のほかに、コンサルティングファームもあります。
両者の違いを表すのに、監査法人のアドバイザリー業務は「守りのコンサルティング」であるのに対して、コンサルティングファームが行うのは「攻めのコンサルティング」であるといわれます。
前述の通り、監査法人が実施できるアドバイザリー業務は、リスク管理と内部統制を主体としたものに限られます。不正や問題が起こらない組織作りへのアドバイスや業務の効率化支援が中心となるため、「守りのコンサルティング」と呼ばれています。
一方、コンサルティングファームには業務上の制限はありません。財務・会計システムの設計・導入を支援する業務、経営の意思決定に助言する業務も行えます。その業務内容を列挙すると、以下の通りです。
- ・戦略立案
- ・IPO、M&A、組織再編
- ・ITシステム導入
コンサルティングファームが提供するコンサルティングは、利益を最大化することを目的としたものがメインです。その意味で「攻めのアドバイザリー業務」と呼ばれています。
また、監査法人とコンサルティングファームでは、勤務する職員・従業員の視点から見ても大きな違いがあります。
ワークライフバランスの違い
一般的な傾向として、監査法人はコンサルティングファームより残業時間が少なめです。また監査法人のアドバイザリー業務は監査業務とは関係がないため、繁忙期もありません。ワークライフバランスのとれた働き方がしやすいのは、監査法人のアドバイザリー部門です。
年収
全体として、監査法人のアドバイザリー業務よりもコンサルティングファームの方が年収は高めです。これは前述の通り残業時間が長いことが主な理由で、さらに成果を上げれば賞与がアップするなどの報奨制度が導入されていることも多く、その点も要因として挙げられます。
キャリアの広がり
監査法人のアドバイザリー業務よりもコンサルティングファームの方が、幅広いキャリアを積みやすいといえます。コンサルティングファームはクライアントの業種業態が多種多様で、いろいろな業界の案件を経験できる環境にあります。また、特定の業界に特化した専門性の高いキャリアを目指すことも可能です。
一方、監査法人のアドバイザリー業務では、内容がリスク管理と内部統制などが中心となり、担当できる案件はコンサルティングファームよりも狭い傾向があります。それでもリスク管理・内部統制など「守りのアドバイザリー業務」のプロフェッショナルになれるので、その点での強みを生かしたキャリアを積むことは可能です。
近年、企業に対してコンプライアンスを求める声が高まり、不正行為に対する社会の目が厳しくなっています。監査法人のアドバイザリー業務で得た経験は、労働市場において価値が上がりつつあるといえます。
アドバイザリー業務で求められるスキルや経験
監査法人のアドバイザリー業務で求められるスキルとして、以下が挙げられます。
論理的思考力
アドバイザリー業務では、問題の本質を捉えた上で助言ができるロジカルな思考が欠かせません。
ただし、利益追求を第一目標とするコンサルティングファームとは異なり、監査法人のアドバイザリー業務では、不正を防ぐための組織作りや業務の効率化支援がメインの仕事です。そのため、「世の中的に誰が見ても正しいといえる提案」をできる人材が求められる傾向にあります。
コンサルティングファームなどで経験をいくら積んでも、そのような社会倫理に基づく判断を正確に下せる能力があるとは限りません。監査法人に転職活動を行う際は、その点を意識して過去の実績・自身のキャリアをアピールする必要があります。
語学力
近年、大手監査法人では、企業がグローバルに事業を展開する際の支援業務に力を入れるようになっています。そのような企業に対するアドバイザリー業務では海外出張が増え、海外チームとの共同プロジェクトも多数発生します。ビジネスの場で問題なく使用できるレベルの高い英語力が求められるわけです。
監査法人の場合、内部統制やリスク管理に関するアドバイザリー業務がメインとなるため、そのための専門用語を英語で使いこなせる必要があります。コンサルティングファームなどで国際的に活躍していた経験をもつ人も、監査法人では見慣れない・聞きなれないテクニカルタームに直面する可能性もあるので、事前の勉強も必要になるでしょう。
コミュニケーション能力、協調性
監査法人のアドバイザリー業務では、金融やIT関係、海外企業経験者など、同僚に多様な経歴をもつ人が在籍していることも多いです。財務・会計の専門家である公認会計士ばかりが同僚である監査業務とは少し勝手が違います。それら多種多様な経歴、バックグラウンド、そして思考傾向をもつ人たちと、コミュニケーションをうまくとりながら業務に取り組むことが求められます。
コンサルティングファームなどと同じく、監査法人のアドバイザリー業務は基本的にチームで行われます。同じチームのメンバーに対し、自分と考え方が違うからといって関係をいちいち悪化させているようでは、業務が前に進みません。バランス感覚や調整力をもってその場をまとめ、かつチームをリードできるような人材が求められます。
とくに大手の監査法人では、輝かしい経歴をもち、能力のある多彩な人材が集結しています。公認会計士が主な同僚となる監査部門などに比べて、刺激的で勉強になることは多いでしょう。
まとめ
監査法人のアドバイザリー業務には、公認会計士資格がなくても転職できます。ただし、求められる人材要件は厳しく、求人があればスキル・能力のある求職者が殺到するので、転職を考える際はその点を踏まえてしっかりと準備を進めることが大切です。
利益追求型のコンサルティングファームとは異なり、監査法人のアドバイザリー業務は内部統制・リスク管理が中心です。現在コンサル業界、あるいはIT業界などにいる方で、「守りのアドバイザリー業務」に興味がある方は、転職先の選択肢として検討してみてはいかがでしょうか。


この記事を監修したキャリアアドバイザー

大学卒業後、教育業界にて教室長としてスクール運営を経験。その後、より多くの方の人生の岐路に携わりたいという思いでMS-Japanへ入社。現在はキャリアアドバイザーとして、東海エリアを中心に、キャリアチェンジやスキルアップを目的とした幅広い世代のご転職支援を担当しております。
経理・財務 ・ 人事・総務 ・ 法務 ・ 経営企画・内部監査 ・ 会計事務所・監査法人 ・ 役員・その他 ・ 公認会計士 ・ 税理士 ・ 弁護士 を専門領域として、これまで数多くのご支援実績がございます。管理部門・士業に特化したMS-Japanだから分かる業界・転職情報を日々更新中です!本記事を通して転職をお考えの方は是非一度ご相談下さい!
あなたへのおすすめ求人
同じカテゴリの最新記事

公認会計士の独立|注意点やメリット・デメリット、必要な準備など

なぜ「公認会計士はやめとけ」と言われるのか?5つの理由と実態を解説

【令和7年公認会計士試験|論文式試験】直近合格率や結果発表後の流れなど

令和7年(2025年)公認会計士試験の日程|試験から合格後の流れ

【公認会計士の転職】完全ガイド|おすすめの転職先17選や年代別転職のポイントなど

公認会計士が独立した際によくある失敗は?後悔しないための準備とは

【令和7年公認会計士試験|第Ⅱ回短答式試験】最新合格率や過去7年間の推移など

企業内会計士とは?転職のメリット・デメリットや年収、キャリアについて解説

2025年版【愛知県】監査法人一覧・求人情報
求人を地域から探す
セミナー・個別相談会
-
はじめてのキャリアカウンセリング
常時開催 ※日曜・祝日を除く -
公認会計士の転職に強いキャリアアドバイザーとの個別相談会
常時開催 ※日曜・祝日を除く -
USCPA(科目合格者)のための個別相談会
常時開催 ※日曜・祝日を除く 【平日】10:00スタート~最終受付19:30スタート【土曜】9:00スタート~最終受付18:00スタート -
公認会計士短答式試験合格者のための個別相談会
常時開催 ※日曜・祝日を除く 【平日】10:00スタート~最終受付19:30スタート【土曜】9:00スタート~最終受付18:00スタート -
初めての転職を成功に導く!転職活動のポイントがわかる個別相談会
常時開催 ※日曜・祝日を除く
MS-Japanの転職サービスとは
大手上場企業や監査法人、会計事務所(税理士法人)など、公認会計士の幅広いキャリアフィールドをカバーする求人をもとに、公認会計士専門のキャリアアドバイザーがあなたの転職をサポートします。
キャリアカウンセリングや応募書類の添削・作成サポート、面接対策など各種サービスを無料で受けることができるため、転職に不安がある公認会計士の方でも、スムーズに転職活動を進めることができます。

MS-Japanを利用した会計士の
転職成功事例
転職成功事例一覧を見る
会計士の転職・キャリアに関するFAQ
監査法人から事業会社への転職を考えています。MS-Japanには、自分のような転職者はどのくらい登録されていますか。
具体的な人数をお知らせする事は出来ませんが、より直接的に企業に関わりたい、会計の実務経験を積みたいと考えて転職を考える公認会計士の方が大多数です。 その過程で、より多くの企業に関わりたいという方は、アドバイザリーや会計事務所への転職を希望されます。当事者として企業に関わりたい方は事業会社を選択されます。 その意味では、転職を希望する公認会計士の方にとって、監査法人から事業会社への転職というのは、一度は検討する選択肢になるのではないでしょうか。
転職活動の軸が定まらない上、求人数が多く、幅が広いため、絞りきれません。どのような考えを持って転職活動をするべきでしょうか。
キャリアを考えるときには、経験だけではなく、中長期的にどのような人生を歩みたいかを想定する必要があります。 仕事で自己実現を図る方もいれば、仕事以外にも家族やコミュニティへの貢献、パラレルキャリアで自己実現を図る方もいます。ですので、ご自身にとって、何のために仕事をするのかを一度考えてみることをお勧めします。 もし、それが分からないようであれば、転職エージェントのキャリアアドバイザーに貴方の過去・現在・未来の話をじっくり聞いてもらい、頭の中を整理されることをお勧めします。くれぐれも、転職する事だけが目的にならないように気を付けてください。 今後の方針に悩まれた際は、転職エージェントに相談してみることも一つの手かと思います。
ワークライフバランスが取れる転職先は、どのようなものがありますか?
一般事業会社の経理職は、比較的ワークライフバランスを取りやすい為、転職する方が多いです。ただ、昨今では会計事務所、税理士法人、中小監査法人なども働きやすい環境を整備している法人が出てきていますので、選択肢は多様化しています。 また、一般事業会社の経理でも、経理部の人員が足りていなければ恒常的に残業が発生する可能性もございます。一方で、会計事務所、税理士法人、中小監査法人の中には、時短勤務など柔軟に対応している法人も出てきています。ご自身が目指したいキャリアプランに合わせて選択が可能かと思います。
監査法人に勤務している公認会計士です。これまで事業会社の経験は無いのですが、事業会社のCFOや管理部長といった経営管理の責任者にキャリアチェンジして、早く市場価値を高めたいと考えています。 具体的なキャリアパスと、転職した場合の年収水準を教えてください。
事業会社未経験の公認会計士の方が、CFOや管理部長のポジションに早く着くキャリアパスの王道は主に2つです。 一つは、IPO準備のプロジェクトリーダーとして入社し、IPO準備を通じて経営層の信頼を勝ち取り、経理部長、管理部長、CFOと短期間でステップアップする。 もう一つは、投資銀行などでファイナンスのスキルを身に着けて、その後、スタートアップ、IPO準備企業、上場後数年程度のベンチャーにファイナンススキルを活かしてキャリアチェンジすることをお勧めします。近年はCFOに対する期待が、IPO達成ではなく、上場後を見据えた財務戦略・事業戦略となってきているため、後者のパターンでCFOになっていく方が増えています。 年収レンジとしてはざっくりですが800~1500万円くらいでオファーが出るケースが一般的で、フェーズに応じてストックオプション付与もあります。
40歳の会計士です。監査法人以外のキャリアを積みたいのですが、企業や会計事務所でどれくらいのニーズがあるでしょうか。
企業であれば、会計監査のご経験をダイレクトに活かしやすい内部監査の求人でニーズが高いです。経理の募集もございますが、経理実務の経験が無いことがネックになるケースがあります。 会計事務所ですと、アドバイザリー経験の有無によって、ニーズが大きく異なります。また、現職で何らかの責任ある立場についており、転職後の顧客開拓に具体的に活かせるネットワークがある場合は、ニーズがあります。

転職やキャリアの悩みを相談できる!
簡単まずは会員登録