「簿記1級はやめとけ」と言われる理由は?後悔しないために知っておくべき現実と活かし方

日商簿記1級は、難易度が高く、企業からも評価される資格ですが、一方で「やめとけ」という意見が聞かれることもあります。
本記事では、簿記1級が「やめとけ」と言われる理由を解説するとともに、取得するメリットや簿記1級が評価され、活かせる転職先についてもご紹介します。
なぜ「簿記1級はやめとけ」と言われるのか
簿記1級が「やめとけ」と言われる理由としては、主に以下の点が考えられます。
合格率が11%前後と低い
直近10年間の簿記1級試験の結果は以下のとおりです。
回 | 実受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
第156回 | 8,553人 | 1,158人 | 13.5% |
第157回 | 6,351人 | 502人 | 7.9% |
第158回 | 7,594人 | 746人 | 9.8% |
第159回 | 9,194人 | 935人 | 10.2% |
第161回 | 8,918人 | 902人 | 10.1% |
第162回 | 9,828人 | 1,027人 | 10.4% |
第164回 | 9,295人 | 1,164人 | 12.5% |
第165回 | 10,251人 | 1,722人 | 16.8% |
第167回 | 9,457人 | 992人 | 10.5% |
第168回 | 10,420人 | 1,572人 | 15.1% |
簿記1級は、2級や3級からのステップアップとして受験する人が多い資格です。
ただし、2級や3級と異なり、合格率は毎回10%前後で、合格者数も1,000人前後と難易度が高い資格です。
この難易度の高さが「やめとけ」と言われる大きな理由の一つです。
ただし、この狭き門を突破すれば、高度な会計知識を有していることの証明となり、取得者が少ないぶん、転職市場や社内での希少価値も高まります。
経理を目指す場合は2級でも十分
経理への転職におけるアピールポイントとして取得する場合、簿記2級で評価される可能性が高いと考えられます。
無理に難易度の高い1級を目指さなくても、2級で評価されるケースが多いため、その労力に見合わないと考える人が「やめとけ」と言っているようです。
実際に、未経験者歓迎の経理求人では、「簿記2級」を応募条件としているケースが多く、簿記1級が応募条件になっていることは極めて少ない傾向にあります。
簿記1級は、経理経験を積んだ上で、より専門性を高めるために取得を目指しても、決して遅くはありません。
今のスキルやキャリアプランに応じて、"必要なタイミングで適切な資格を選ぶこと"が大切です。
簿記1級取得にかかる勉強時間
簿記1級の勉強時間は、独学の場合で1,000~2,000時間、通学や通信講座を利用した場合でも500~800時間程度が目安とされています。
難易度が高い試験なので、勉強期間は10か月以上かかることが想定されます。
そのため、試験日も考慮して計画的に勉強を進めることが重要です。
簿記1級は独学でも合格可能な資格ですが、短期間での合格を目指す場合は、通学や通信講座の活用が効果的です。
簿記2級や3級と比較することで、1級の難易度の高さがより明確になります。
以下は簿記1~3級の勉強時間と期間の目安をまとめた表です。
級 | 勉強時間 | 勉強期間 | |
---|---|---|---|
独学 | 通学・通信講座 | ||
1級 | 1,000~ 2,000時間 |
500~ 800時間 |
10か月以上 |
2級 | 250~ 350時間 |
150~ 250時間 |
4~6か月 |
3級 | 100時間 | - | 1か月程度 |
簿記2級や3級と比較すると、簿記1級の取得難易度が際立っていることがわかります。
自分の現在の実力や確保できる学習時間を踏まえ、無理のない級から段階的に取得を目指すことが賢明です。
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簿記1級を取得するメリット
簿記1級を取得するメリットとしては、以下の3点が挙げられます。
上位資格への基礎力を養える
簿記1級は、公認会計士や税理士などの国家資格と出題範囲が重なっており、それらの試験に向けた土台となる知識を体系的に身につけられます。
特に税理士試験では、税法科目の受験資格として設定されているだけでなく、会計科目の簿記論と簿記1級は出題範囲が重なる部分が多いため、試験勉強にも役立ちます。
将来的にキャリアの幅を広げたい方にとって、上位資格へのステップアップを見据えた有効な選択肢となるでしょう。
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経理・財務分野での専門性を証明できる
簿記1級では、連結会計や原価計算、企業会計原則など実務に直結する高度な内容が問われます。
そのため、経理・財務分野における専門性の証明として有効であり、上場企業やグローバル企業をはじめ、多くの企業で高く評価されています。
特に将来、決算業務の中核やマネジメント層を担うことを目指す場合には、知識の裏付けとして大いに役立ちます。
簿記1級は転職に有利?
簿記1級は、会計・経理分野における高度な専門知識を証明する資格として、企業から一定の評価を受けています。
特に大手企業や上場企業では、連結決算や管理会計などの高度な業務を担える人材が求められるため、簿記1級の取得によって専門性の高さをアピールできます。
一方で、採用においては資格だけでなく、年齢や実務経験とのバランスも重視されるのが実情です。
たとえば、20代であれば簿記1級がポテンシャルの評価につながることが多いものの、30代以降では「資格に加えて実務経験があること」が重視される傾向があります。
転職活動では、資格の有無だけでなく、「その知識を実務でどのように活かしてきたか」「今後どのように活かせるか」を具体的に伝えることが重要です。
簿記1級を活かせる転職先:大手企業の経理
簿記1級を活かせる転職先の一つとして、大手企業の経理が挙げられます。
すべての求人で必須とされるわけではありませんが、保有していることで応募可能な求人の幅が大きく広がり、知識の深さを示す強力なアピール材料になります。
特に応募者の多い大手企業では、他候補者との差別化を図るうえで大きな強みとなるでしょう。
連結決算や原価計算が求められる子会社を持つ企業や製造業では、簿記1級で習得する専門知識が高く評価される傾向にあります。
簿記1級保有者向けの大手企業の経理求人例
東証プライムの化学工業機械メーカー/経理財務
仕事内容 |
・経費精算および精算システムに関する事務 ・銀行、会計士、税務対応に関する業務 ・決算締めに関する仕訳伝票作成 ・資金計画の基礎資料作成 |
必要な経験・能力 |
・会計関連の資格(日商簿記1級以上等) ・公認会計士試験または短答式試験合格者 ・開示書類作成実務経験者またはメーカーでの経理業務経験者 |
想定年収 |
450万円 ~ 670万円 |
上場/働く環境◎の経理スタッフ
仕事内容 |
・単体決算業務、計算書類の作成 ・連結決算 ・監査法人対応 ・債権債務管理、固定資産/リース資産/棚卸資産管理に関する事項 |
必要な経験・能力 |
・日商簿記1級 ・公認会計士 ・USCPA |
想定年収 |
450万円 ~ 600万円 |
簿記1級を活かせる転職先:会計事務所
会計事務所では「簿記2級以上」を応募条件とする求人が多く、簿記1級保有者はより高い評価を受けやすい傾向にあります。
とくに税理士資格の取得を目指す方にとっては、実務と学習の両面でメリットがある職場です。
資格取得を支援する体制を整えている事務所も多く、実際に税理士の下で働くことで、実務知識の習得や学習意欲の向上にもつながります。
なお、税理士登録には原則として2年以上の実務経験が求められます。
税理士試験の合格前でも、会計事務所での勤務経験は実務経験として認められるため、税理士資格の取得を目指す方にとって有効なキャリアステップとなります。
簿記1級保有者向けの会計事務所求人例
税理士法人/税務スタッフ/年間休日125日
仕事内容 |
・決算書作成業務 ・税務申告業務(法人税、所得税、消費税など) ・税務相談業務 ・決算書分析/報告業務 ・資産税業務 |
必要な経験・能力 |
・日商簿記2級以上 ・普通自動車免許 ・巡回監査経験者(10~40社程度) |
想定年収 |
460万円 ~ 600万円 |
勉強支援が手厚い会計事務所/税務スタッフ
仕事内容 |
・法人税等に関する税務業務 ・会計(記帳代行・給与計算) ・経営コンサルティング ・相続シミュレーション業務 |
必要な経験・能力 |
・簿記2級以上 |
想定年収 |
450万円 ~ 800万円 |
簿記1級を活かせる転職先:コンサルティングファーム
コンサルティング業務において資格の取得は必須ではありませんが、簿記1級で培った知識は実務に活かすことができます。
たとえば、M&Aや事業再編における会計処理の支援や財務デューデリジェンス(DD)の場面で、連結会計や原価管理に関する知識が有効に活用されます。
また、コンサルティングファームは年収水準が比較的高い傾向にあり、待遇面でも魅力的な選択肢となります。
簿記1級保有者向けのコンサルティングファーム求人例
事業再生コンサルタント(スタッフ)
仕事内容 |
・事業DD、財務DD ・再生計画立案、実行支援 ・金融機関調整 |
必要な経験・能力 |
・簿記2級以上の会計知識 ・事業再生業務に興味のある方 |
想定年収 |
450万円 ~ 800万円 |
大手有名ファーム/経営コンサル(M&A・事業承継)
仕事内容 |
・事業承継・M&Aコンサルティング業務 (中堅・中小企業メイン) |
必要な経験・能力 |
・会計に関する一定の知識(簿記2級以上) ・会計事務所での勤務経験がある方 ・M&Aや事業承継業務の実務経験者 |
想定年収 |
500万円 ~ 1,200万円 |
簿記1級保有者の転職成功事例
管理部門・士業に特化した転職エージェント「MS-Japan」を活用して、転職を成功させた簿記1級保有者の事例をご紹介します。
中小企業から上場企業の経理へ転職した事例
Hさん(20代・男性)
転職前:中小企業 経理
転職後:上場企業 経理
中小企業で月次・年次決算補助までを担当していたHさんは、将来のキャリアを見据え、上場企業における会計基準での実務に挑戦したいと考え、転職を決意しました。
転職活動では、上場企業での経理経験が不問の求人を中心に応募を進め、最終的に大手上場企業への転職を実現しました。
簿記1級およびTOEIC800点という資格を有していたことから、ポテンシャルが高く評価され、内定獲得に至りました。
会計事務所から上場企業へ転職した事例
Tさん(20代・男性)
転職前:個人会計事務所
転職後:上場企業 経理
Tさんは大学卒業後、個人会計事務所に勤務していましたが、代表者の高齢化により将来的な不安を感じ、安定した環境でキャリアを築くため、一般企業の経理職への転職を決意しました。
初めての転職であったものの、綿密な情報収集や面接対策を行い、上場企業への転職を成功させました。
企業側からは、Tさんの熱意に加え、簿記1級および税理士試験科目(簿記論)の合格実績が評価され、採用につながりました。
まとめ
日商簿記1級は、合格率の低さや長時間に及ぶ学習負担から「やめとけ」と言われることもありますが、それに見合う高い価値を持つ資格です。
上位資格への基礎力養成や、経理・財務分野における専門性の証明、さらには資格手当の支給など、取得によるメリットは多岐にわたります。
とくに、大手企業や会計事務所、コンサルティングファームでの活躍を目指す方、またはキャリアアップを図りたい方にとっては、有効な武器となるでしょう。
本記事で解説したメリット・デメリットを踏まえ、ご自身のキャリアビジョンと照らし合わせながら、簿記1級取得を検討してみてはいかがでしょうか。
簿記1級の真の価値を理解し、戦略的にキャリアへ活かしていきましょう。
- #簿記1級
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- #簿記やめとけ


この記事を監修したキャリアアドバイザー

大学卒業後、新卒でMS-Japanへ入社。企業側を支援するリクルーティングアドバイザーとして約6年間IPO準備企業~大手企業まで計1,000社以上をご支援。
女性リクルーティングアドバイザーとして最年少ユニットリーダーを経験の後、2019年には【転職する際相談したいRAランキング】で全社2位獲得。
2021年~キャリアアドバイザーへ異動し、現在はチーフキャリアアドバイザーとして約400名以上ご支援実績がございます。
経理・財務 ・ 人事・総務 ・ 法務 ・ 法律・特許事務所 ・ 役員・その他 ・ 社会保険労務士事務所 ・ 弁護士 を専門領域として、これまで数多くのご支援実績がございます。管理部門・士業に特化したMS-Japanだから分かる業界・転職情報を日々更新中です!本記事を通して転職をお考えの方は是非一度ご相談下さい!
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